2007年2月26日月曜日

セックスワーク/ 芸術 神話 現実

社会の認識のしかた

クロイツベルクにある NGBK (Neue Gesellschaft für Bildende Kunst) という非営利のギャラリー主催の展覧会。ここは普段から社会学的アプローチに偏ったコンセプチャルな企画展が多いんだけれど、今回もタイトルは 「セックスワーク」。「性を売る」 こと、またはもう一歩踏み込んで 「性」 そのものを、社会的問題あるいは個人の内的問題として扱っている美術作品から構成されている。問題点への切り込み方が実にさまざまな中で、目に留まった作品をピックアップ。

「ワーキング・ユニット Z01」 Tadej Pogačar, Anja Planišček
これはあらゆる場所に仮設できる売春のための簡易施設なんだそう。性的欲望は押さえつけずに合法に解放させた方が得策であるとし、社会において売春が安易に肯定されていることをアイロニカルに指摘する。


「メモリアル」 クリスティアーノ・ベルティ Christiano Berti
合計18枚の写真シリーズ。1993年から2002年の間にイタリア、トリノ郊外で計19人の売春婦が就労中に殺害された。過去に惨事の起こった現場を探し出し、その風景を記録する。写真が撮影されたのは2001年から2002年にかけて。展覧会場ではジェンダーの学者が記事を書いた読み物が配布されていてそれによると、売春婦を求める男性客は何かしらの社会的なプレッシャーを受けていて、そのプレッシャーを買春を通して解放したいんだそうな。例えば男として認められたい、とか。そういったプレッシャーをエロスとして昇華できなかった場合に、その暴力が誤った方向へと走る危険が伴うのだそう。悲惨な出来事にも関わらずベルティの風景写真にはある種の距離感が漂う。気に留めることなく通り過ぎてしまう空虚な風景はまるで、そんな狂気に走る瞬間の理性の及ばない心のふとした間を見ているよう。


セックスやSMプレイを通した自己認識、自己実現をポジティブに表現している作品がいくつかあった。 (下の写真のビデオ作品の作者は誰だかわからなくなってしまいました。ラテックスのスーツの女性が作家らしい。) ばりばりのコンセプチャルな作品に囲まれて、ブブ・ド・ラ・マドレーヌさん BuBu de la Madeleine のビデオ 「売女日記/ お客と一緒に撮るポルノ 」 の詩的、私小説的な映像作品は目をひいた。

ところでビルギット・ハイン Birgit Hein の16ミリ映画 「Baby I will make you sweet」 をまた発見。個人的に好き。女主人公がジャマイカに旅行し、そこで知り合った黒人の若者との情事をあけっぴろげに記録。最初の車窓からのドイツの雪景色からジャマイカの熱帯林へと替わるところが好き。それと映像が荒れててきれい。あとこの人が好き。


「神のうつわ」 クララ・S・ループリッヒ Clara S. Rueprich
暗室内に向かい合わせに映写される二つの室内風景。教会と売春宿。修道女と売春婦の独白が同時に聞こえる。キリスト教ではイエスを産んだ聖母マリアは「神のうつわ」 とみなされることから、作家は修道女と売春婦に同じ質問をする ― 神、お金、肉体、社会との関係。精神的な存在である修道女と肉体派の売春婦。 「私の魂は肉体の形をとってしか他者に伝達することができません」 この修道女の言葉は、修道女と売春婦、社会において両極に位置する女性の役割が、実は非常に類似することにも気づかせる。一つの社会の中に作り上げられる2種類の女性像。それは、ひとりの女性の中に存在する聖性と俗性でもあり得るし、ひとりの人間の中に存在する精神性 (修道女) と肉体性 (娼婦) でもある。お互いはお互い無しでは成り立たない。精神は肉体に宿り、肉体は精神を内包する。


ドラッグ中毒の女性と一人のおかま。エヴァ・マリア・オッカーバウアー Eva Maria Ocherbauer の壁面作品。


「家」 ガブリエレ・ホルンダシュ Gabriele Horndasch
スライドに手作業で刻まれた単語。 Steckdose (コンセントの差込み口) Sumpfblüte (沼地に咲く花) Stundenbraut (時間制花嫁) Täubchen (小鳩ちゃん) Tempeldienerin (寺の侍女)、などなど娼婦、売春婦の類語は600にも及ぶ。そのような言葉の置き換えは、肉体行為そのものの生々しさを覆い隠し、性を商品としてみることを促しているんだそう。



それにしても、作品を鑑賞するというよりは、読み取りに忙しかったです。面白いんだけど。ところで、こういうNGBKがよくやるような、社会の姿を新たな視点から改めて認識させようとする行為を芸術の使命とする考え方って、カール・マルクスの芸術論とは関係あるのでしょうか?この疑問はもうちょっと私の中で暖めておく。

展覧会: SEXWORK. KUNST MYTHOS REALITÄT

会場はベルリン各地計3箇所

SEXWORK 1: Neue Gesellschaft für Bildende Künste e.V.

SEXWORK 2: HAUS am KLEISTPARK

SEXWORK 3: Kunstraum Kreuzberg/ Bethanien


3つの展覧会場にはそれぞれこんな勉強部屋が設置されていました。資料を閲覧できます。

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