2007年2月8日木曜日

ウィリアム・ケントリッジ 「月世界旅行」

作家の自画像

また、木曜のただの日にハンブルガー・バーンホフに行ってしまいました。南アフリカ出身の白人作家ウィリアム・ケントリッジの作品を美術館が購入したということで、お披露目の展示がありました。
大きい暗いホール内に映写スクリーンが大小合計8つ。作家自身が自分のドローイングの前を行ったり来たりしながら描いては消し、思考する創造のプロセスが小さいフォーマットでいくつも映写される。作家はドローイングの向こうに側に何かを見極めようと躍起になる。壁にかかる数あるドローイングの中には日本人にも馴染みの深い小説 「星の王子さま」 に出てくる帽子 (あるいは象を飲み込んだうわばみ) のイラストに似たものもあって、そんなところからも作家の思考を垣間見せる。
そういった様々な切り口から自らの制作プロセスを見せる小作品に囲まれる中、ホール正面には編集の少し凝った映像作品が他より大きめに映写されている。これがメインの作品らしい。こちらもアトリエで制作する作家自身が主人公。逆さにしたエスプレッソのカップを望遠鏡のように使って、台形の真っ黒く塗り潰されたドローイングの表面を覗き込む (写真上)。夜の闇のように、或いはコーヒーの粉のように黒いドローイングの向こうに見える風景の中でエスプレッソの受け皿は月となって空に昇り、エスプレッソ・マシンはロケットとなり地上から発射する (写真下)。
ところでタイトルは 「Journey to the Moon/ 月世界旅行」、1902年にジョルジュ・メリエスにより製作された映画と同名。ケントリッジによると、このメリエスの映画の背景には19世紀後半の植民地主義的な思想が入り込んでいるんだそう (未開拓の野生の地に進出する文明)。ケンブリッジの作品において月面の風景は、自身の出身地である南アフリカの風景と同化する (しかしここではその風景はロケットが発射する地として表現される)。
いつしか裸の女性が作家の背後に寄り添う。作家はその存在にぼんやりと気づきはするが実在をはっきりとつかむことは出来ない。美の女神に寄り添われるクールベの自画像 「画家のアトリエ」 を想わせる。寓意を通した、芸術家である自身の存在表明。

William Kentridge / JOURNEY TO THE MOON
ベルリン・ハンブルガー・バーンホフ現代美術館
2007年5月6日まで

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