2007年1月12日金曜日

ハンス・ハーケ展

HANS HAACKE: Wirklich

ベルリンのパリ広場にある美術アカデミーでハンス・ハーケの展覧会をやってる。彼のインスタレーションは設置される場所と密接に関係してそこから意味が発生する要素が重要なので、この展覧会は過去の活動を回顧してカタログ的に紹介するもの。なのでパネルに張られた作品写真を拝んで、壁に掛かってる説明をひたすら読むのがテーマ。立ってるのもつらくなるし、かなり充実した時を過ごせます。

政治的コンセプチャル・アート
ハーケといえば1993年ベネチア・ビエンナーレの 「ゲルマニア」 が有名だけど、彼の名をドイツ人一般に知らしめた作品が 「DER BEVÖLKERUNG」 (2000): このページの "abrufen" をクリックすると入力日時の作品が見れます。ブランデンブルク門の隣、東西ベルリンの境界にあったため戦後長いこと放置されていたドイツ連邦議会。首都がボンからベルリンに移り建物が修復され、そこに設置する美術作品として招待作家のひとりであったハンス・ハーケが提案したのがこの 「DER BEVÖLKERUNG: 居住民に」 。この作品の出発点は、ドイツ連邦議会の建物の正面に1916年からに記されている 「DEM DEUTSCHEN VOLKE: ドイツ国民に」 という言葉。ここでの VOLK (国民) という言葉がどちらかというと 「ドイツ民族」 という血統を強調した表現と誤って理解されがちであることにハーケは異議を唱える (リンク) 。連邦議会堂の中庭に置かれた DER BEVÖLKERUNG (住民: この地に居住する人々、といった意味) という文字をかたどるオブジェの足元には当時の議員がそれぞれの出身地から持ち寄った土を敷き詰め、その後放置される。DER EVÖLKERUNG の文字をかたどったオブジェは、その土から生える雑草の中に次第に埋もれていく。当時、ドイツ保守である CDU (キリスト教民主同盟) の議員が作品設置に対しての反対キャンペーンを実施したという、まるで作り話のような、よくそんな罠にまんまとはまる議員がいたものだと思わせる事件も起き、作品が一般にも知られることとなった。展覧会会場では連邦議会で行われた当時の議論のビデオが流れる。

人を怒らせることをわざとして、その人の本心を暴くやり方って・・・。それが許されていいかは別の問題として、作家としての活動初期からその手法が取られていることがこの展覧会では観察できる: 1971年の、「シャポルスキーとマンハッタン不動産所有者他 実況社会システム 1971年5月1日付: Shapolsky et al. Manhattan Real-Estate Holdings, a Real-Time Social System, as of May 1」 。ニューヨーク・マンハッタンにある不動産の正面写真と売買の記録が淡々と並べられ、それらの不動産売買を通じて親会社であるシャポルスキー・グループのみが利益を得るからくりが暴露される。ハーケは当時この作品を他の作品と共にある美術館のある企画展 (名前思い出せず) に出品し、美術館側から拒否され、それでも出品をあきらめなかったら、ついに展覧会の企画自体がお流れになってしまったのだそう。そこで当時憶測された拒否の理由は、美術館の運営委員にシャポルスキー・グループに関係する人間がいる事実からである、ということ。私がこれいいな、と思ったのは作品のありかたが純粋にコンセプチャルだから。同じように政治的な連邦議事堂の作品においては、設置場所がアートの文脈を離れるために、そしてそれでもなおかつアートであり続けるために、彫刻としての体裁を提示しなければ成立しない。ちょっとパラドキシカルだけど、「シャポルスキー」 のような初期の作品は純粋にコンセプチャル (非物質的) でありつつ、アートを成立させる体制の文脈を意識的にかき乱すことによって作品が成立していた。

エコシステムとしての社会構造

今回の展覧会最大の謎は、60 年代ミニマルの影響を受けた彫刻作品群。壁面にずらっと説明パネルが並ぶ真ん中に、どん、どんと微妙に違ったコンセプトを持つ彫刻作品が置かれている。挑発的なポリティカル・アーチストといったハーケのイメージとはずいぶん異なる。「波」 と題された、透明なアクリルの薄いケースに閉じ込められた水が波のようにゆらゆらゆれる作品や、青いナイロンの旗が下から扇風機の風に煽られて翻る作品など。これらのミニマルの姿を借りた生態学的な作品群が彼のその後の政治的姿勢とどのように関連してくるのかが簡単には語り尽くせないところで、一番面白いところでもあると思う。ただ「循環」 というゴム管の中を水が一つのモーターを起点として循環する作品が提示する生態系的モデルと、不動産を巡り一企業に利益が回収されていく利害関係についての相関図が一致するのに気づくき、DER BEVÖLKERUNG が自然発生する雑草に覆われていることに想いを馳せると、結局一人の作家は時代と共に作品提示の方法論さえ変わって行くけれども作家としての本質的な基本姿勢は変わらないんだなと、いつもながら思う。で、その変わらない姿勢って、どういうことなんだろう。

HANS HAACKE
wirklich
Werke 1959-2006
Ausstellung 18.11.-14.1.2007
Akademie der Künste / Pariser Platz




展覧会サイト:
http://www.adk.de/de/aktuell/veranstaltungen/i_2006_1/HANS-HAACKE-wirklich.htm
会場風景:
http://www.adk.de/de/aktuell/veranstaltungen/i_2006_1/Hans-Haacke-Installationsansichten.htm
作家について:
http://www.b-sou.com/palm-Haacke.htm

注意!
ベルリンにはアカデミー・デア・キュンステ (芸術アカデミー) が二つあります。そしてむやみに出かけてみると必ず間違えます。施設や機関がなんでもふたつづつあるのは、東西二つのベルリンが存在したと言う歴史ゆえそれがこの街のおもしろいところでもあるんだけど。展覧会を訪ねる場合はどちらのAkademie der Kuensteが会場か絶対に確認してから出かけましょう。でもたぶん私がばか。

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