2007年1月9日火曜日

フィルムの中の時間と空間

ベルリンのハンブルガーバーンホフ現代美術館で行われている 「映画館の向こう側: 投影の芸術」 というタイトルの展覧会。1960年代から最近までの映像を使った美術作品をいくつかのテーマ別に陳列。私たちが普段エンターテイメントとして消費している映画を、換骨奪胎して映像と言うメディアが持つ独自の時空間を明示する。いくつか個人的に気に入った作品をここに紹介。

ピエール・ユイグ
Pierre Huyghe: „L’Ellipse“, 1998













タイトルは 「略述法」。ヴィム・ヴェンダースの1976年撮影の映画「アメリカの友人」が横に3枚並べられたスクリーンの一番右に映写される。人と会うためにパリに来る主人公。それが終わると次は真ん中のスクリーンに、その主人公を演じる俳優ブルーノ・ガンツが、20年の歳月を飛び越え現在の年老いた姿で、ホテルから外出し約束の場所に辿り着くまでパリの街を歩く。待ち合わせ場所への到着の瞬間、映像は左側スクリーンへと移行し、映画「アメリカの友人」からの続きのシーンが映し出され、作品は終了する。映画から抜粋される2つのシーンをつなぎ合わせる真ん中の映像は、映画撮影から20年経た現代パリの風景、映画的な物語空間とは異なりカット無しの長回し、役者は自然に振舞い、写実的・ドキュメンタリー的に撮られている。かわって虚構のナラティブな映画空間の中では、ある時点から次の物語を繋げる時点までが一足飛びにカットされ、変速的な時間軸に沿ってストーリーが語られていく。そういう映画技法上の事実がここでは重層的に組み替えられている。

モニカ・ボンヴィチーニ
Monica Bonvicini: „Destory She Said”, 1998













タイトルはマグリット・デュラスの小説から。2枚のスクリーン上に、往年の女優たちのドラマチックなシーンが映写される。スクリーンはベニヤ板を使って簡単に設置されていて、舞台の書き割りを想わせる。スクリーンの背後には赤いランプが灯り、その存在を浮かび上がらせる。映画のシーンの中では、モニカ・ヴィッティ、カトリーヌ・ドヌーヴ、アンナ・カリーナといった女優たちが壁に寄りかかり、それぞれ劇的に絶望してみせる。1950年代から70年代にかけてのヨーロッパの作家主義的な映画。それらが男性監督の作品であることから、父権主義的な構造の中で人目に晒される女性たちの姿とも読める。
ここでなんとなく気になったのは、どうしてスクリーンが2枚必要?ということ。ひとつは垂直に、もうひとつは斜めに後ろから支えられている。きっと画面がひとつだと映写されるイリュージョンの中に没入してしまいがちだけれども、画面が2つありそこから意識の集中が分散されることで、背後からの赤いランプに浮かび上がる安っぽいスクリーンの物質としての存在感が際立つからでは?その薄っぺらな存在感は、ヒロイン達が意味を成さない言葉を発しながら感情的なシーンをドラマチックに演じる劇的なシーンの薄っぺらさとも重なる。

ジョン・マッセイ
John Massey: „As the Hammer Strikes“, 1982













この作品ではうって変わって車、仕事、テレビ番組、ガールフレンド、ストリップ小屋といった男性的事象が提示される。作家がヒッチハイクで拾った若者と交わした実際の会話を映像作品として再現したもの。3つの画面が横一列に並ぶ。真ん中の画面には常に走行中の車内の風景。車内の後部座席からの撮影。会話を交わす男性二人の後姿。車のフロントガラスを通して車内から見る外の風景はここでは、映画のスクリーンに見入る現実の鑑賞者の姿と重なり、また会話を交わす両者の姿がそれぞれの座席からお互いを確認しあう角度から映し出される。作品鑑賞者と登場人物の同一化。そういった走行中の車内の風景と交互に、会話に登場する事物が同時進行で左右のスクリーンに映し出される。車内のシーンが古い写真のような色褪せた色彩であるのに対して、これらのアソシエーションは白黒。商業映画の物語的な空間と比較して、ここでは主観的な意識の流れが重視されている。

アンディ・ウォーホール
Andy Warhol: „Outer and Inner Space“













2つ並べて映写される16mm フィルム。ウォーホール映画の出演女優イーディ・セジウィックが、自らインターヴューに答える映像が映し出されるヴィデオモニターの前に座って、画面上の自分 (あるいは画面の向こう側に存在する人物) と会話する。

展覧会タイトル「映画館の彼岸」は、スコットランド出身の作家ダグラス・ゴードンの「映画館は死んでも映像は生きつづける・・・」とかいう発言に乗っ取ってるらしい。ちょっと意味不明だけど、そういえば、彼の前回のベルリン・グッゲンハイム美術館での展覧会 (ここ) には、会場の奥に映画館が設置され、入り口にはEXITのネオンが鏡文字になって点灯していた。映画館の中が幻影の世界なのか、それともこちら側が幻影なのか。

展覧会INFO:
Jenseits des Kinos: Die Kunst der Projektion
Filme, Videos, und Installationen von 1963 bis 2005
29. September 2006 – 25. Februar 2007
リンク:
展覧会サイト (ハンブルガーバーンホフ現代美術館)

0 件のコメント: