2010年5月2日日曜日

メルケル vs. シュレーダー

アートによる政治的表明

シュレーダー元首相の仕事部屋に掛けられたゲオルグ・バゼリッツの『墜落する鷹』。

Gerhard Schröder - stürzender Adler (Georg Baselitz)

プロイセン、ワイマール共和国、はてはナチスドイツでも国章として使用され、現在でもドイツ連邦共和国の国章に使われている黒い鷹が、ここではバゼリッツの十八番の手法「逆さま」で描かれています。

墜落する鷹。保守・伝統に対するアイロニー?

また、シュレーダー元首相の前職であるコール元首相が、ある意味オーソドックスな近代芸術に傾倒していたのに比べ、バゼリッツという選択はかなり現代的であるといえます。

シュレーダーはバゼリッツ以外にもヨルク・インメンドルフ (Jörg Immendorf) やマルクス・リューペルツ (Markus Lüperz) らの芸術家たちと個人的に親交があり、インメンドルフはシュレーダーの肖像画(老いた芸術家に特有な出来?)を描いたりもしています。

メルケル現首相の場合、オスカー・ココシュカの手になるコンラート・アデナウアーの肖像。

Angela Merkel - Konrad Adenauer (Oskar Kokoschka)

1966年にココシュカが連邦議会からの依頼で描いたものです。

ココシュカのようにナチスから退廃芸術家と烙印を押された芸術家たちは、過去との意識的な決別を目指す戦後の政治家たちに好んで引用されています。ヘルムート・シュミット元首相が1975年にボンの首相官邸を表現主義の作品で埋めつくしたことしかり。また、ここに描かれているアデナウアーはキリスト教民主同盟 (CDU) の初代党首であり、メルケル氏の政治活動上での鑑といえるでしょう。

メルケルと、ココシュカによるアデナウアー。これは保守への回帰? それともメルケル首相の穏やかで謙虚な政治姿勢と理解すべきでしょうか?

もちろん、シュレーダーさんにもメルケルさんにもプライベートな趣味嗜好というものはあるでしょう。しかし、首相官邸の仕事部屋という、メディアを通じて大衆の目に晒される場においては、個人の好みを超えた表明があるということを、このふたつの写真は教えてくれます。

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本テーマは、現在ドイツ歴史博物館で開催中の展覧会「権力の誇示/統治戦略としての芸術」(Macht Zeigen. Kunst als Herrschaftsstrategie) にても扱われています。展覧会は2010年6月13日まで。公式サイト
参考

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