2010年5月2日日曜日

政治への利用?

コルヴィッツのピエタ像をめぐって

ドイツ古典主義建築の巨匠シンケルによって「衛兵所」として設計された建物(過去の記事)。

歴史の波に翻弄された紆余曲折を経て、東西ドイツ統一後の1993年以来ドイツ連邦政府の中央追悼施設として「国民哀悼の日」の式典会場となっています。

当時の首相ヘルムート・コールの考えにより、ここにはケーテ・コルヴィッツの『ピエタ』が設置されていますが、このことは当時大変大きな論争を巻き起こしました。


1914年に第一次大戦で失った息子の死を昇華させるため、1938年にこの「母と子」と名付けられた作品が制作されました。実はコルヴィッツのオリジナルは、大きさがたったの38センチ(オリジナルはベルリンのケーテ・コルヴィッツ美術館収蔵)。ノイエ・ヴァッへに設置されている複製では、高さが150センチまで拡大されています。足下には「戦争と暴力統治による犠牲者のために (Für die Opfer von Krieg und Gewaltherrschaft)」と碑文があります。

論争の焦点は何だったのでしょうか。

ひとつめは碑文の文面「戦争と暴力統治による犠牲者」が、犠牲者と加害者を同等に扱っているとも理解できるという点でした。例えば、ナチス高官も上からの命令に従っただけの犠牲者と考えることも可能だということです。

そしてふたつめはコルヴィッツの作品に見られる「ピエタ」という図像パターンにあります。このイコノグラフィーがキリスト教特有のものだということで、他の宗教を排除するという意味で排他的と考えられます。しかもユダヤ人に殺害されたキリストの死を悲しむ像で第二次世界大戦で大量殺害されたユダヤ人の死を追悼するとはいかがなものか、という批判です。

特に影響を及ぼしたのが、以下のツァイト紙(1998年13号)の記事でした。

»Denn die Pieta schließt sowohl die Juden aus wie die Frauen, die beiden größten Gruppen der unschuldig Umgebrachten und Umgekommenen des Zweiten Weltkrieges. Dies ist antijüdisch: Hinter der Trauer um den Leichnam Christi lauern jene seit dem späten Mittelalter bösartig visualisierten Juden, die den Gottessohn ermordet hätten. Und hinter der sichtbar überlebenden Mutter rufen Millionen vernichteter, ermordeter oder vergaster und verschwundener Frauen: Und wer gedenkt unser? Ein doppelter Mißgriff mit Folgen, die sich aus einer deshalb auch ästhetisch zweitrangigen Lösung zwingend ergeben. Der Denkfehler gebiert ästhetische Mißgestalten.« (Reinhart Kosselick; Die Zeit; 1998, Nr. 13)

「なぜなら『ピエタ』はユダヤ人と女性達の両方を排除するからだ。両者とも第二次世界大戦で無実のまま殺害された者たちの代表である。そしてこの両者を排除することこそが、反ユダヤ的なのである。キリストの遺骸を囲む悲嘆の背後には、神の子を死に至らしめ、そのため中世以来悪として視覚化され続けてきたユダヤ人たちが見え隠れしている。またここに生き残り実像化されている母の背後には、虐殺され露と消えていった何万人もの女性たちが叫び声をあげている。いったい誰が、我々を思い出してくれるというのか? ここで犯されている二重の過ちは、芸術的に凡庸な思考の帰結であるといえる後遺症を伴う。すなわち思考上の過ちが、芸術的に不適切な形体を生んだのである」



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現在ドイツ歴史博物館で開催中の展覧会「権力の誇示/統治戦略としての芸術」(Macht Zeigen. Kunst als Herrschaftsstrategie) にても本テーマが扱われています。展覧会は2010年6月13日まで。公式サイト

Neue Wache についての参考 URL

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