ドイツのミニマリズム Minimalism Germany 1960s
ポツダム広場を通るたびにおもしろいなー、と思うのは、ここが「大都市」を模倣しているから。
ニューヨーク、ロンドン、東京などの大都市では、乱立するビルや錯綜する路地といった都市としての魅力が100年以上かけて生成されたのに対し、ここでは建築家たちの計算されつくした計画によってわずか数年で作り出されてしまった、と考えるのです。
計算しつくされた感のあるビルが重なり合う細部を目にすると、その思いを強くします。
高層ビルに囲まれつつ、それでもやけに風通しが良くて、その空虚さがベルリンらしい不思議な感じなのですが。
というわけで、今日はダイムラーコンテンポラリーで開催されている「60年代ドイツのミニマリズム」展へ。
周りのポストモダン建築群に圧倒されてひっそりたたずんでいるのはハウス・フート (Haus Huth) と呼ばれるかつてのワイン商の家。 この4階がダイムラー・コンテンポラリーです。ベルを鳴らすとドアを開けてくれます。
下の写真:空き地時代のポツダム広場にぽつんと立つハウス・フート。
とても重厚な内装がかつての栄華を忍ばせます。エレベーターで4階へ。
ダイムラー・コンテンポラリー内。換気管のような形体はシャルロッテ・ポゼネンスケ (Charlotte Posenenske) の作品。前回のドクメンタ12 (2007年) で国際的脚光を浴びた今は亡き作家です。
ダイムラーとは、言わずと知れた自動車メルセデス・ベンツの会社です。企業の文化事業の一環としてアートのコレクションに力を注いでいます。1977年から始まった収集は「20世紀の抽象美術」に重点を置くというのがうたい文句です。
第二次大戦後のドイツでは、ナチス支配下で国家の理想を描いた具象芸術が奨励され前衛芸術が退廃の烙印を押され弾圧されたことへの強い反省から、ナチス政権以前の芸術の動き、つまり1910年代〜20年代にみられた抽象芸術へと回帰していきます。また同時に、戦後ドイツが文化的・政治的にアメリカの強い影響下にあったことも、ドイツ抽象芸術が特にアメリカ美術を手本として発展したことの原因となります。
とはいえ、こういったことはすべて西側の話。今回の展覧会においても題目が「ドイツの」ミニマリズム (Minimalism Germany 1960s) であるのに、旧東ドイツでがすっかり抜け落ちてしまっているのは、そういったことに非常に敏感なこの国では、注意不足以上のものがあるといえるでしょう。
誤解を恐れずに言うならば、「20世紀抽象美術」を収集するという行為が、実は旧西側の旧イデオロギーをその根に持っているといえるのです。冷戦が終結し、対立しあうことで存在意義を保っていたイデオロギーが消滅した現在、これと同じことを公共の美術館がやったら大変なことになるでしょう。未来を拓くはずの芸術が懐古主義に陥っているのです。たとえ過去の作品や流派を展示するとしても、歴史理解にこそ未来へのまなざしが大きく関係してくるはずです。
でもそこが、ダイムラー。
下の写真、床に設置された黒い物体が、イミ・クネーベルのかつての同志、イミ・ギーゼ (Imi Giese) の作品。クネーベルと共にイミと名乗り、共にヨーゼフ・ボイスを師としました。1974年に自殺。彼の作品は初めて目にしましたがとても美しいです。特に写真作品のなんとも言い表せない繊細さにびっくりしました(壁に掛かっている黒い正方形です)。
作品は、いいものが揃っています。さすが、ダイムラー。
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ダイムラー・コンテンポラリー (Daimler Contemporary)
住所:Alte Potsdamer Straße 7, 10785 Berlin
開館時間:11時〜18時、入場無料
公式サイト
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