2007年8月27日月曜日

フリデリチアヌム玄関ホール

ドクメンタ第一会場であるフリデリチアヌム。
ここがドクメンタの顔となる玄関ホールは John McCracken ジョン・マックラーケンの金属製ミニマル人柱。

中心にオブジェが立つ玄関ホールの両壁はすべて鏡面となっていて、そこには観客と作品が映りこみ、作品にも観客と壁が映りこみ、作品の存在感は完全に打ち消されていました。作品を提示するのではなく、作品を無に帰してしまう。

私の読んだかぎりではジョン・マックラーケンの作品はあくまでもこのオブジェのみ。鏡で覆われたホールはキュレーターのコンセプトによるものらしいです (??)。

そうだとすれば、しょっぱなからずいぶんとひねくれたコンセプトだといえます。

玄関ホールを入りマックラーケンのオブジェを通り過ぎると正面には階段が。中二階から二手に別れそこからはらせん状に上階へと導きます。

人だかりで見えませんが中階正面には P・クレーの小さな銅版画 「新しい天使」 が掛けられています。

これはドイツ人哲学者ヴァルター・ベンヤミンの解釈を通じて知られている作品です (「歴史哲学テーゼ」)。この 「歴史の天使」 は未来をその背に、過去に向かって正面を向き繰り返される破局の瓦礫を見つめながら 「進歩」 と呼ばれる強風に正面から未来の背後へと吹き飛ばされる・・・

またこの絵の作者であるクレー自身も第一次世界大戦直後の瓦礫の山を目前にしそこから抽象性を引き出したことを記しています。

でもなぜ現代美術のトレンドセッターであるはずのドクメンタのしかも中央ホールに古びたクレーの絵が??

実際にこの階段を登ってみると足元がなにげなく不安。構造がちょっとやわです。なぜならこれは今回のドクメンタのために仮に設置された階段だから。資料を読むと、このフリデリチアヌムが第二次世界大戦の爆撃で破壊され、戦後に再建される前にあったオリジナルの階段を再現したということです。

そう知らされてみると、ここにクレーの 「新しい天使」 が掛けられているのが妥当に思えてきます。
戦後ドイツの文化的復興として始まったドクメンタの歴史、そして「モダニズムは我々の古典か?」 といった今回のドクメンタのテーマである歴史との取り組みまでもが脳裏に浮かんで、さまざまな意味の層を成していく。

それにしてもその瓦礫を目前に未来へ羽ばたく天使の画の前に、マックラーケンの存在を剥奪されたオブジェが設置されていることを思ってみると、なかなか不思議な気持ちがしてきます・・・

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

興味深く読みました。「新しい天使」は今はどこにいけば見られるかご存知ですか?たいへんうらやましいです。
「新しい天使」をドクメンタに置いた意図は、カタログかなんかに出ているのでしょうか...。疑問が尽きません。質問ばかりですみません!

引用もさせてもらいました。
http://d.hatena.ne.jp/masaaki_iwamoto/edit?date=20071213

へびおんな さんのコメント...

「新しい天使」 のオリジナル・タイトルはAngelus Novus、ドクメンタのカタログでクレジットを見ると 「Collection The Israel Museum by David Harris」 となっています。エルサレムにあるみたいですね。

ドクメンタでも複製が額に入れられているだけでした。たとえ複製でも展示するところからして、キュレーターのこの絵に対する相当な思い入れが伺われます・・・

「新しい天使」 と戦後再建されたフリデリシアヌムとモダニズムについては、私が書いたような関連での記事は特に見つけていません。ドクメンタ関連の出版物はびっくりするくらいたくさんあるので、探せばあるかもしれません。

今回のドクメンタのテーマが 「モダニズム検証?」 であることは 「Documenta Magazine No.1, 2007 Modernity?」 で、クレーの版画については会場で売っていたカタログ 「Documenta Kassel 16/06-23/08
」 で、フリデリシアヌムの戦後の再建と今回の展覧会に合わせた階段ホール設置については会場にあった無料のパンフレットでそれぞれ確認しました。