キーワードは内と外、左右対称性、表層と透明性 etc.
ギャラリーの一階ホールにはクローク・ルームが左右対称に二つ設置されています。来場客が各自手荷物やコートを預ける所です。
今回この左右二つのスペースを利用した展示を発表したのがベルリンの女性作家 Susanne M. Winterling。
左右二つのクローク内には、鏡合わせの状態で同一の展示がされています。展示物は、8ミリ映画、白黒写真、コラージュ、オブジェ。
左右対称の展示には、左右対称に多重露光された女性ポートレート。
カタログを読んでみるとなかなか面白いコンセプトが書いてあります。
以下要約。
タイトルは Eileen Gray, The Jewel and Troubled Water。アイルランドの女性デザイナー、アイリーン・グレイ(上写真 1878−1979)が 作品の中枢に置かれてる。彼女が1924−28年にかけて南フランスに建てた個人宅 maison en bord de mer E.1027 に、モダニズムの巨匠ル・コルビュジェは感嘆し、内密に何度も足を運び、しまいには本人の許可無く住宅内に壁画を設置してしまったそう。(というのがカタログ文章の翻訳ですが不思議な話ですね…)その壁画には女性のヌードも描かれており、グレイはこの行為を蛮行、ある種の凌辱と受け取りました。
また、二人の間の軋轢はそれぞれの建築家としての自己理解とも関わっていました。
ル・コルビュジェが汎的に使用可能なモデュロール・システムを用いて仕事をしたのとは対照的にグレイは、建築を構成する各要素は個別の特徴を持ち、また人体の器官に似た機能を持つと考えました。
今回ビエンナーレの出品作で作者は、コルビュジェと並ぶもうひとりのモダニズムの巨匠ミースの建築内に左右対称に設置された二つのクロークをグレイに因んで人体内の肺とみなし、また作品を展示することで元来の機能を剥奪、コルビュジェがグレイの住宅で行った蛮行に対する返答としています。この返答の仕方は、フェミニズム的な思考や既存物を占有することによる意味の変換など、様々な側面を持ちます。
クローク内。グレイの住宅のモデルが中央に据えられ、奥には8ミリ映画が延々と映写されています。ガラス板に溜った水滴が、向こうに通り過ぎる車のライトに照らされています。これは、ガラス張りの新国立ギャラリーの内部からの夜の風景。滴り落ちる水滴は、内外の気温差で建物内の湿気がガラス板上で冷却されたもの。ここで、作家のクロークを肺とする想定と、グレイのまるで生き物のように有機的に呼吸をする建築コンセプトとが重なります。
男性主義に支配されたモダニズム建築をグレイのコンセプトに沿って有機的に捉える。
本来のクロークが作品化されてしまったので、コートと荷物はこちらの彫刻作品にひっかけられます。今度は自分の持ち物が作品化。
見張ってるお姉さんが大変そうでした。
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