ローラ・ダーン演じる女優ニッキー。いわくつきの呪われた映画を撮影していく中で現実と虚構の境目がつかなくなってくる。繰り返し挿入される泣きながらテレビを見る若い女性。ウサギのいる部屋。劇場の舞台のようにカメラ目線は固定されている。ウサギたちは意味をなさない会話を交し合い、バラエティー・ショーの人工的な笑い声が空しく響き渡る。
映画が進行するにつれ、テレビを覗き込む女性がポーランドに居ることがわかってくる。ニッキーの夫とポーランド女性の夫とが同じ男優に演じられるあたりから、この二人の女性がシンクロし始める。
この映画を、ハリウッドとポーランドの二つの世界があることを前提に見てみると、意外とすっきりする。ローラ・ダーンのハリウッドの豪邸とポーランドの女性が住む家。ハリウッドのメインストリートとポーランドの裏町。きらびやかな世界に誇るハリウッドとヨーロッパの奥に潜むうらびれた世界。映画スターとディレクター達の住む世界と、娼婦達の住む世界。
ローラ・ダーンはスタジオに建てられた映画用セットを通じてこちらとあちらの両極を行き来きする。映画セットはここでメディア (媒体) の役割を果たします。かわいくて滑稽で不気味な、ウサギの部屋は、デヴィッド・リンチ監督にとって、テレビや映画などのメディア世界なのではないでしょうか
こういう点で、プロット的には鏡の国のアリスなんかと比較できるかも。
でも、この映画で何よりも特筆すべき点は、あのいつまでたっても出口のないずるずると引っ張られる感じ!ローラ・ダーンが一度ナイフで刺されたあと、はー、やっとこれで終わりかと思ったら、さらにこれでもかと再び迷宮に入っていくところでは、さすがに体力の限界を感じました。でもこの出口のないずるずる感に身を委ねられたら結構心地いいかもしれません。
映画セットの窓を通したこちらとあちらの世界。ローラ・ダーンはあちらに入り込んでしまいました。
日本公式サイト: http://www.inlandempire.jp/index_yin.html
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