2009年7月22日水曜日

不可視である記憶

Temporäre Kunsthalle Berlin (一時的美術館) で開催されているアロラ&カルサディージャ (Allora & Calzadilla) という二人組みアーチストの作品。

展示室の天井がベニヤで覆われいつもより低くなっています。天井裏からはばたんばたんと大きな物音がしていて、パンフレットによると実際の生身のダンサーが上階で踊ってるんだそう。

リズミカルな音が縦横無尽に駆け巡ります。


Allora & Calzadilla; "Compass" (2009) 

音はせども姿は見えず。

この「一時的美術館」の設立の由来に因んだ、いいアイデアだと思いました。

美術館の外観。


この敷地は、かつてプロイセン王国国王の居城、ベルリン市城が建っていた場所です。

下は1930年撮影。


そして戦後、空襲で残された瓦礫を片付けた跡地に、東独政府によって建てられた共和国宮殿 。2005年撮影。


東西ドイツ統一後、この共和国宮殿を再び取り壊して、かつてのベルリン市城を再建しようという動きが起こりました。
昨年2008年の秋に完全解体されるまで、反対運動が起きて、メディアでも賛否両論。城を再建するというアイデアがあまりにも復古・保守的なのが問題でした。

そして現在2009年7月現在の状態。すっかり更地になってしまって、かえってすがすがしいです。

コンテナ状の「一時的美術館」は、この跡地に2年という期間限定で設置されました。

天井裏から聞こえてくるダンサー達の躍動は、想像することは出来るけれども目にすることが出来ません。

かつてここに建っていたプロイセンの王宮と、東独の文化宮殿。これらの建築物は消え去り、今日では目にすることは出来ませんが、土地はこの記憶を保持しています。

そういった意味で、アロラ&カルサディージャのインスタレーションは、目に見えないけれども存在する記憶を、「見えないこと」を通して表現しているといえるのでは。

絵画の問題について 3−3

イミ・クネーベル

グッゲンハイム美術館と同時進行の新ナショナルギャラリー でのイミ・クネーベル展 『ZU HILFE, ZU HILFE ... 』。

このミース・ファン・デル・ローエ設計の美術館の斬新なところは、地上階が四方ガラス張りのがらんどうで、地下が展示スペースになっているところなのですが (参考)、クネーベルはこの地上階の空間に自己の作品を完全に関連付けています。

美術館の入り口を入ったところには門のようなオブジェ。 三つの大きさの異なる入り口。

『助けてくれ、助けてくれ・・・』(1987年)

この門の作品の他には一見、何もないように見えますが、ホール中央に対称的に並ぶ二つのクローク・ルームの裏側に、作品が隠されています。

『19号室 III 』 (1968/2006年)

西側クロークの裏にあるのは『19号室』と題された作品で、オリジナルは1968年制作。クネーベルはヨーゼフ・ボイスの生徒だった頃にアカデミーの19号室をアトリエとして使用しており、その部屋で成立して公開された、彼のキャリアの出発点となった作品。

横の隙間から見るとこんな感じ。パネルとか木枠が重ねられています。


この辺からすでに、立体でありながらも「絵画」に形式的にアプローチをする、彼の一貫した姿勢が見て取れます。

『バッテリー』 (2005年)

もう一方の作品も同じくクロークの裏側に。奥に見える淡い緑色の立方体には良く見ると蛍光塗料が塗られています。夜になると光るのでしょう。
このエネルギーを保存して自ら光るオブジェと、作品タイトル「バッテリー」がもろにボイスを想わせます。


こちらがベルリンのハンブルガー・バーンホフ美術館にあるボイス作品。脂肪の塊がエネルギー貯蔵庫として象徴的に扱われています。


『ポツダマー通り50番』 (2009年)

美術館の住所が作品タイトル。ミース・ファン・デル・ローエのガラス壁が白っぽい塗料で覆われており、曇りガラスのように外からの光を通します。

よく見ると塗料には微妙に色差がつけられいて、幾何学的な抽象絵画のようにも見れます。

「絵画」を意識して意図的に残された筆跡。



ところで、現在同時開催されているシュールレアリスム展 (Bilderträume) ですが、これがなかなか面白かったです。冒頭で他のシュールレアリスト達を凌駕するマックス・エルンスト作品の美しさを堪能し、展覧会後半ではポロック、ニューマンやロスコなど、アメリカ抽象表現主義の代表的作家達の初期の作品群が展示されていて、これらが戦時中に次々にアメリカへと移住していったシュールレアリスト達直接の影響を受けていることを直に目にすることが出来ます。

抽象表現主義、またはカラー・フィールドとも呼ばれたりする作品群だけからはなかなか見えにくい真実です。

ヨーロッパのシュールレアリスムとそれを原初とするアメリカ抽象表現主義、この作品の表面上ごく似通っている両者の本質が同等であるか異なるのか、異なる場合はどう異なるのか、そんなことを考えてみると面白いかもしれません。


Imi Knoebel 展 『zu Hilfe, zu Hilfe... 』
Neue Nationalgalerie にて2009年8月9日まで


Bilderträume 展
同じく Neue Nationalgalerie にて11月22日まで


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